ポール・クルーグマンの日本化した世界:需要不足解消とデフレ退治は金融政策だけでは無理で財政政策の助けが必要!

2016年3月の国際金融経済分析会合で、ポール・クルーグマン氏の話した内容を日本当局は明かさなかったのに、クルーグマン教授自身がツィートで明かしてしまったと話題になっています。確かにスティグリッツ&ジョルゲンソンの両氏については、議事録があるのに、クルーグマン教授のだけは公式にありません。

首相官邸:第三回国際金融経済分析会合の配布資料なし

最後の方に、安倍首相がドイツに財政支出を行うように説得に向かうことをオフレコで明かしています。ここが明るみに出たこと、そしてドイツに対して少し非難する色が入っているのは日本政府として気になることではないでしょうか。

ドイツ説得に何か方法はないかと安倍首相がクルーグマン教授に確認しています。ここだけ取り上げているマスコミ等もありますが全体の議論が分からなくなりますので、できれば、全体の流れを捉えた方がいいと思います。

そのことの是非はさておき、内容は非常に示唆に富んでいます。さらに、政府首脳が、日本と世界経済にどんな懸念を持っているのか、どのような政策を考えているかをズバリとクルーグマン教授に聞いているのは参考になります。

全文を訳してくれいる方がいらっしゃるので、重要な内容をまとめておきます。


ポール・クルーグマン:経済的な弱さが世界に蔓延、デフレ退治が目標

日本だけでなく、世界全体が困難に直面していると話します。大事なのは4点

  1. 経済的な弱さの蔓延した世界:私達は皆が日本になってしまった
  2. 主要経済大国の結びつきが強まっている:資本移動の観点から
  3. 金融政策で目標達成は難しい:大胆な金融政策をもってしても目標達成は難しい。量的緩和の限界について
  4. 金融政策は財政政策の助けを必要とする:全世界的に財政政策が必要

スティグリッツ教授やピケティ氏などの主張とも共通しており、需要不足や金融緩和の限界から財政政策の必要性や世界全体での共通政策の必要性を話しています。

1.経済的な弱さの蔓延した世界

●就業者数の推移(1985~2020年) 日本及びドイツ

労働就業者数

 

出典:世界経済のネタ帳

日本は1997年の6557万人をピークに労働者人口が減少傾向にある。

●ユーロ圏は、1998・1999年頃の日本のファンダメンタルズに似ている。

  • 労働年齢人口は縮小
  • 技術革新は弱い

欧州中央銀行は、賢明な人物が運営、効力を持つがインフレ目標は達成できない。マネーを金融緩和でジャブジャブにしても弱さが続く。成長は長期的停滞を脱せない。

●米国はマシ。雇用増加は良好も生産性の伸びは弱い。米国へも弱さが入り込みつつあるという兆候がある。

インフレは目標値以下で、賃金も伸びていない。そして、他国の問題で米国の足が引っ張られる。

●新興国特に中国

中国は調整が必要で、現在の経済を支えられない。中国の政策は危なっかしく、良い兆候ではない

2.主要経済大国同士の相互依存

主要大国の相互依存は、クルーグマンの考えでは、きわめて大きい。通常、相互依存は限定的。現代でさえ、国際的な取引の流量はそれほど大きくない。主要経済大国はGDPのほんの数パーセントを他国へ輸出しているに過ぎない。

しかし、投資家達の認識が【弱さがこれからもつづきそうだ」となると、そこからの影響は大きくなる。

ユーロ圏の問題が非常に長期間に渡ると考えられるようになれば、ユーロ圏の金利は低くなる。現在、ドイツの十年国債の利率は0.2%。

これは、どの国であっても、その経済が比較的、他国より強いと見なされたら、大量の資本流入の受け手となり、それによって通貨は押し上げられる。そして通貨高はその国の競争力を弱めて「経済の弱さ」を分かち合うことになる。

米ドルが上昇したのも同じ。さほど良い状況ではない国でも他国からの資本流入の受けてとなり、財政拡大の努力が掘り崩されているかもしれない。

黒田日銀総裁があらゆる手を尽くしても、日本円が上昇したのは、他の主要な経済大国の弱さから起きたこと。

●中国の特別な問題

中国は、世界経済の強さの源であり、最近までは、通貨(人民元)を安く抑えることで非難を浴びてきました。ところが、今は、巨額の資本流出に直面し、通貨を支えるために介入しています。2015年の資本逃避は約1兆ドルにのぼったと推測。

中国は莫大な準備金を持っていますが、莫大と無限大は違う。人民元の下落は現実味があり、、それが起きれば、みんなに影響を与える=相互依存性。

3.金融政策=唯一の手段

財政政策は政治でマヒして、金融政策が不本意ながら唯一の可能な手段。

日本のアベノミクスでも3本の矢(金融政策・財政政策・成長戦略)のうち、最大のものは金融政策。黒田総裁はこの重責の大部分を実行。

ただ、金融政策の限界が、出てきている。非伝統的な手法を試す時、効果はだんだん小さくなり、困難になってゆく。

マイナス金利は可能と分かったのは注目。正しいと考えるが、さらに推し進めても影響は限定的。

欧州のマリオ・ドラギ総裁も有能だが、ECBは牽引力を失い、インウfれ期待は後退しつつある。

世界的弱さへの対処としての最大の政策が期待程の効力を持っていなかったことを目のあたりにしつつある。

4.財政政策:現在、必要とされている最大の政策

過去7年間を見ると財政政策は有効だった。しかし、これを採用するのは難しい。数年間は不良債権を抱えることになる上に政治的対立がある。

財政支援よりも長期的な予算問題を優先という考えは、見当違い。これは消費税のこと。

●構造改革:構造改革に反対ではない。需要を押し上げるという最重要課題からは的外れ。

●アベノミクス:将来の労働力拡大は人口動態的な逆風を相殺する助けになる

構造改革はの話は、差し迫った問題対処をしない口実になることがある。

  • 十分な需要
  • デフレ・低インフレとの戦い
  • 不十分なインフレとの戦い

金融政策には限界があり、財政政策に焦点を当てるべき

●リスクが非対称:経済が良くなるか悪くなるか。

もし、世界経済が成長を始めて、インフレ率が上昇したら、対処法はあるので問題はない。

世界がもっと弱まれば、有効な手段はない。

もしも、間違うならば財政拡大しすぎた方へ間違う方が良い。

今は協調して財政拡大すべき。G7で財政拡大政策について合意することが理想。日本とカナダはできそうだが、他国は分からない。

アベノミクスの目標であるデフレサイクルからの脱出が最重要

●経常収支の推移:日本・アメリカ・ドイツ・中国・フランス ドイツの経常収支は大幅黒字。

経常収支出典:世界経済のネタ帳 経常収支 = 貿易収支 + サービス収支 + 第一次所得収支 + 第二次所得収支

●財政収支においても余裕のある国はドイツ。

財政収支

出典:世界経済のネタ帳 一般政府(国・地方自治体・社会保障基金)において、歳入から歳出を差し引いたものである。

クルーグマン教授と政府首脳の討論

安倍晋三首相の質問:財政支出と累積債務の問題

2%というインフレ目標を設定してデフレ脱却を目指している。

日本が財政支出をする際に、累積債務を懸念している。黒田総裁のマイナス金利で10年国債はマイナス金利になっている。これを利用して日本は財政支出すべきとの声がある。

これをどう考えるか。

●クルーグマン教授の回答

債務があろうとも財政支出すべき。その理由は3点

  • 財政刺激策はデフレ脱却に重要。金融政策一本では難しい
  • 金利が非常に低い。
  • 債務の懸念。安定した先進国が自国通貨で借入をした場合、財政危機に至りにくい。2000年頃から日本国債下落への賭けは損失に終わった。国際市場は強く暴落シナリオは描くのも難しい。

日本がギリシャみたいになる。日本は自国通貨を持っているので、最悪の事態は円が下落するだけ。心配すべきことではない。

長期的な財政状態の懸念として、日本の実質金利が高すぎる状態になること。脱出するにはプラスのインフレ率を維持すること。2%以上であるべきだと考える。

麻生財務大臣の質問:企業はどうすれば設備投資を行うのか?

1930年代のアメリカもデフレ。ニューディール政策をルーズベルト大統領が導入。しかし、経営者達が貸し出しを受けて設備投資をしなかった。

日本企業の稼ぎ出す収益は過去最高なのに、設備投資をしない。企業の手元にはお金があるが、賃金上昇や設備投資に回さない。現金や預金を手放そうとしない。

1930年代のアメリカでこれを打開したのは戦争だった。

日本の企業家はデフレマインドに捉われている。設備投資を始めるきっかけをつかみたい

●クルーグマン教授の回答

第二次世界大戦をマクロ経済学の視点で見ると、非常に大きな財政刺激策だった。もちろん、それは非常に不幸な事。

1937年にルーズベルト大統領は財政刺激策を引っ込める。それは、予算をバランスさせよとの声が大きかったから。それが不況の第二波を呼んだ。

過去を見ても企業収益と企業投資の結びつきは弱い。

日本の成長は弱いと、日本の経営者は考えている。彼らは、日本が低インフレかデフレへ逆戻りすると予想している。

脱却するための衝撃が必要。やり過ぎるくらいやる。ロケットが地上に逆戻りしないための脱出速度が必要。

安倍晋三首相:消費税引き上げで景気悪化した理由は

2014年の消費税8%引き上げが消費を落ち込ませた。欧州の付加価値税引き上げは日本程大きな影響はなかった。

なぜ?その理由はデフレ?

●クルーグマン教授の回答

消費税引き上げが、日本経済の回復を大きく阻害した理由は分かりません。景気拡大政策が中段したと考えたせい?

需要を上昇させるのが難しい理由は日本経済の基礎条件の中にある。人口動態、労働年齢人口は毎年1%以上縮小している。

欧州も日本と同じ、米国も労働年齢人口の成長が急激に低下。

日本がこの状況に陥ったのは1990年代で、その他の諸国は2008年までそうならなかったことに理由がある。

出席男性の質問:他国が財政刺激策を取るために必要なことは

G7には、ドイツ・米国・英国といった財政刺激策を取る余地がある国はいくつか存在。今後数か月で実施する可能性は低い。彼らを行動させるにはどのような主張が必要?

●クルーグマン教授の回答

ドイツは、まったく別の知的宇宙に住んでおり、難しい。

米国はオバマ大統領がインフラ支出増大を好んでいる。しかし、議会を通らない。大統領選が迫っており、議会がひどくなる可能性と良くなる可能性の二つがある。

政策担当者のコミュニティは財政刺激策の方に目を向けつつある。

菅官房長官の質問:資源価格低下の影響は

資源価格の低下が与える影響は?

●クルーグマン教授の回答

需要で最も大きな新興国の中国は資源輸入国、中国にとっては好ましいこと。

ブラジルとアフリカには深刻な影響。

先進国への経済的な逆流は明らかでない。地政学的な心配が必要かも。

サプライズとして、原油価格の下落は経済に好ましいと考えられていた。ところが、考えていた程、好ましいものではなかった。

その理由として、原油価格下落の要因はシェール=水圧破砕法の流行。米国はエネルギーが重要な投資セクターなので、原油価格下落は消費を増やすとともに投資に打撃を与える。

資源価格の下落は地政学的要素・世界の大多数にとって重要。

先進国の問題としては、そこまで重要ではない。先進国に起きているのは需要の問題。

安倍晋三首相の質問:単一通貨ユーロの問題

EUは単一通貨をもつがゆえにギリシャ問題が起きた。ギリシャ問題とEUは?

ユーロ問題

●クルーグマン教授の回答

ユーロは大きな制約になっている。

フランスは緩和する財政余地があったかも・・・ユーロのせいで動く能力や強さを持っていないのでは。

もし、フランスが自国通貨を持っていたら問題はない。ドイツより金利を少し高くすれば借り入れてができる。ユーロという制約のせいで動けない。

今の欧州は、ユーロどころではない。難民危機が経済問題を追いやってしまった。

ヨーロッパというプロジェクト自体のほころび。非常に開かれた統合システムを作ったのに、有効なものとする制度を用意しなかった。そのため、マヒしており、みんなの問題を増やした。

ヨーロッパで唯一の効力あるプレーヤーはマリオ・ドラギ総裁一人だけ。しかし、彼はどの政府もバックについておらず、限られたことしかできない。

二か月後にイギリスがEUを去る方向に、投票が決する可能性がある。これが起きると世界経済の足をさらに引っ張る。

G7メンバーで有効に働けるのは、日本とカナダだと私は考える

安倍晋三首相の質問:ドイツを財政出動させるための方法は?

クルーグマン教授の国際社会は、財政において協調すべきで、可能な国は財政支出すべきという考え方に私は賛成します。

オフレコですが、ドイツを訪問して、財政出動のための政策について説得する。(ドイツは財政支出余地が大きいはず)そのためにいいアイデアは?

●クルーグマン教授の回答

なかなか難しい。メルケル首相は有能だが他の問題に気を取られている。

もう一つ、合意可能な刺激策は気候環境政策。グリーンテクノロジーへの移行という施策ではないか。

安倍晋三首相の質問:難民問題での財政刺激策は有効?

気候環境政策に加えて・・・

ドイツの難民問題のために、難民のための住宅投資や教育投資は、財政政策の観点から有効だろうか?

難民問題

●クルーグマン教授の回答

有効ではある、しかし、大きな金額にはならない。

難民問題は、社会的不安のせいを引き起こしとてつもない緊張を生み出す。難民の面倒を見ること自体は、大きなコスト(お金)はかからない。

戦争と並ぶ程の財政支出を探すなら、それは難民問題ではない。難民問題は甚大な社会的・経済的緊張になるが、金銭的にはそこまでのものではない。

 

ポール・クルーグマン教授は、山形浩生氏の軽快な訳文もあって、日本で評価・人気の高い経済学者。最後の方に安倍首相がクルーグマン教授の意見に同意しているように、財政刺激策を日本がこれから行う可能性は高い。

一時的な債務増加になっても、財政支出を行うでしょう。

そして、現在の需要減少は、ファンダメンタル要素=人口動態。人口ボーナスを支えた団塊世代が高齢化して労働人口が減ったことが大きいと世界的に認知が広がっています。

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